2021年7月15日

「オール富士」の共同開発 紙パッケージトイレットペーパーの誕生秘話

 丸富製紙株式会社(以下弊社)は静岡県富士市を拠点とする総合家庭紙メーカーです。今年で創業66年を迎え、トイレットペーパーの生産量としては国内トップクラスの規模になります。

 今回はパッケージも紙でできた新商品「ペンギン超ロング4倍巻き4ロール・シングル(紙包装)」誕生の裏側を、共同開発のご担当者?大昭和グループ 大昭和紙工産業株式会社 杉原様(パッケージ事業本部)、大昭和グループ 株式会社齊藤商会 宮川様(ペーパー&パッケージ営業部)、天間特殊製紙株式会社 酒井様(製造部)、弊社担当八木(技術開発部)・棚瀬(営業本部兼マーケティング本部)(以下、敬称略)に語っていただきました。?

ストーリー左から大昭和グループ 株式会社齊藤商会 宮川様、?大昭和紙工産業株式会社 杉原様、天間特殊製紙株式会社 酒井様、弊社八木、棚瀬

 

■会社として初の「紙パッケージトイレットペーパー」プロジェクト発足

 紙パッケージトイレットペーパーの構想は約2年前からありました。海外の機械メーカーから提案を受けましたが、その時点では機械と資材の両方を輸入に頼らざるを得ず、供給の安定性やコスト面での問題に折り合いがつきませんでした。とはいえ、海洋プラスチック問題解決への貢献、SDGsの目指す持続可能な社会形成の促進など弊社としても様々な点で興味深い案件でした。なんとか内製化できないかと1年かけて検討を重ね、具体化し始めたのがちょうど1年ほど前。コンセプトは “オール富士” 製紙を地場産業とする、地元富士市の企業との共同開発で進めたいという方針が決まり、弊社の一大プロジェクトが始動しました。

 

ストーリー

 

■前途多難な試作の道のり 原点に立ち返り見つけた解決策

 トイレットペーパーは水に溶けやすい素材であり、水に「溶けてしまう」素材でもあります。紙で包装するにあたり、従来のポリ袋同様の耐水性や強度と、包装機械に適した薄さは相反する条件でした。薄い紙では心許ないが、厚いだけの紙では機械に通す際破れてしまう。素材探しから難航したこの計画でしたが、これらを解決する素材を提案してくださったのが天間特殊製紙さんでした。天間特殊製紙さんは弊社と同じく富士市に拠点を置く、機能性の高い特殊紙製造を強みとする製紙メーカーです。耐水性と加工のためのある程度の伸びが確保できる最高の素材と出会いました。

 

ストーリー

丸富製紙株式会社・八木
 従来のトイレットペーパーの包装といえばポリ袋が主流で、中身が見える透明性が消費者の安心材料の1つだったと思います。紙パッケージでもこの透け感を表現したいという意向があり、天間特殊製紙さんの原紙と出会いました。機械適性を持たせるまでには試行錯誤しましたが、この発想がなければまだまだ商品化には至っていなかったと思います。

 

 

ストーリー

天間特殊製紙株式会社・酒井
 開発の一報を聞いたときは、物づくりに携わる者として興味深く、素直にワクワクしました。透明性、強度、塗工など、どれをとってもうちの技術が一番生かせると感じ、合計200以上のサンプルを作成しました。富士市は紙のまち。横のつながりも多いですし、コミュニケーションも取りやすい環境にあります。昨日作ったサンプルを今日テストしてフィードバックが返ってくる、というスピード感のある開発ができたのは、同じ富士市に拠点がある大きなメリットでした。きれいな印刷をしようと思えば適した素材は他にもありますが、和紙のような風合いのある原紙だったため、インクを載せた際も今までとは違った印象の商品になるのでは、と思いました。

 素材が決定し、次の課題は機械適性でした。こちらは、大きな原紙を袋にする工程と、できた袋にロールを入れる工程の2段階での適性が求められました。

 整袋に携わってくださったのは、紙袋を主力に多種多様な紙製品を製造する大昭和紙工産業さん・株式会社斎藤商会さん。同じく富士市に本社を置く製紙メーカーで、印刷と加工の両方面での調整が始まりました。

 

 

大昭和紙工産業株式会社・杉原、株式会社齊藤商会・宮川
 紙を扱う会社として様々な案件に携わってきましたが、店頭に並ぶ物を作り上げるワクワク感を持ってプロジェクトがスタートしました。通常の紙は縦方向に繊維が入っているため折り目をつけると線が入りますが、この紙は強度がある分折れづらく、当初の加工スピードは通常の半分以下でした。生産性とクオリティの両立のため、機械のパーツを新調し、工程を明確にすることなどでスピードは20%ほどUPしました。安定供給のためにも、今後は通常のクラフト紙同様の生産効率を目指しています。

 

ストーリー

 

 

 実際の生産を見据えて実機での試作段階に入りましたが、従来のポリ袋用包装機械を使用するとロールを入れて端を圧着した際外観にシワが寄ってしまい、満足のいく仕上がりにはなりませんでした。行き詰まりかけた時解決の鍵となったのは、当初の案だった「底面を天面に使用する」という発想でした。

 すぐに試作に取りかかると、ロールの収まりが良く、また天間特殊製紙さんの特殊な原紙素材により、通常底面にくる接着部分が剥がしやすいという新たな発見がありました。

 一般的な紙素材ですと、開封時にビリビリに破れてしまいますが、今回の紙パッケージは、整袋時の糊濃度等にも工夫・改良を加えたことで、袋の形状を保ったまま、綺麗に開封することが可能です。これを生かし、商品を使い終わったあとは上部を折り込んで、ゴミ袋や収納袋としてリユースしていただける設計にしました。当初、機械での加工特性を優先し生まれた原紙素材でしたが、発想の転換により、使用するお客様にとってもメリットのある、まさに発想の転換と偶然の産物が重なって生まれた最高の紙パッケージが完成しました。また、同時にこの特殊な原紙素材と整袋方法に関する特許を出願しました。

 

 

大昭和紙工産業株式会社・杉原、株式会社齊藤商会・宮川
 普段我々が生産している紙袋は、”破れない・剥がれない”が大前提でしたが、今回は全く逆の発想でした。紙表面の強度が高いため、層を壊すことなく袋の形状を保ったまま剥がすことができました。「剥がして使う紙袋」という認識を現場に共有し、糊の混合濃度を変えながらテストを重ねました。また、袋の天地を逆にすることで、印刷用の版やのりしろの位置なども全て逆になりました。途中の違和感は拭えませんでしたが、イメージ以上の完成度になりました。色の表現性は紙の素材に影響される部分がありますが、デザインや色と素材の相性も良かったように思います。今回はより環境に優しい「ベジタブルオイルインク」を採用しました。こちらも相性が良かったようで、はっきりと発色しながらも雰囲気に合う落ち着いた印刷表現ができたと思います。

ストーリー

 

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■「エコを楽しむ」コロナ禍のおうち時間を彩るトイレットペーパー

 今回の紙パッケージ商品開発にあたり、押し付けるエコではなく日常生活に寄り添って「エコを楽しむ」ことにご共感いただきたいと考えました。パッケージのデザインは、当初の案の中から社内アンケートを実施し、何度も修正を繰り返して完成しました。トイレは究極のプライベート空間でありながら、他人と共有するため些細なストレスを感じやすい場所。表裏で色の印象が異なるパッケージ、ホワイトシルエットでさりげなく浮かび上がるナチュラルな柄などで、トイレ空間を華やかに、ほっと一息つける場所にしたいと考えました。素材の透け感を活かし、好きなノートや便箋などに切り貼りして可愛くリメイクすることも可能です。コロナ禍でおうち時間が増えた今、様々な面でぴったりのトイレットペーパーです。

 

ストーリー

丸富製紙株式会社・棚瀬
 ここ数年は、環境配慮型商品に注力されている販売店さんも増えてきています。中身を使って終わりではなく、ゴミ袋として、デコレーション用途として、など様々なリユース方法を提案することで、ご家庭でのその後の使用展開もご想像いただきやすいかと思います。また、パッケージはもちろん中のロールにもこだわった商品です。芯がないのでゴミが出ず、省資源な設計になっておりますし、ゴミを捨てる手間が減り家事の負担を軽減することもできます。また、輸送効率も格段に上がり、CO2の排出量の削減にもつながることで、環境への負荷を減らし、SDGsの目指す持続可能な社会の実現に貢献いたします。

 発表以来SNS上でもたくさんの反響をいただいており、消費者の皆様のご関心は想像以上に高かったと実感しています。シングル商品が先陣を切っての発売となりましたが、今後はダブル商品や様々なシリーズ商品のご要望もいただいております。

 

ストーリーロールを取り出した後はゴミ袋や収納袋としてリユース可能

 

ストーリー素材の透け感を生かしてデコレーション用途にも

 

ストーリーボタニカル柄のホワイトシルエット

 

 

■アフターコロナを見据えて これからも進化し続ける商品に

大昭和紙工産業株式会社・杉原、株式会社齊藤商会・宮川
 パッケージを紙にしたことで二次利用の幅が大きく広がりました。また、紙という素材を使うことでこんなにも様々なストーリーが展開されたのだと思います。改めて紙袋の良さを感じていただき、1人でも多くの方に使っていただきたいです。

天間特殊製紙株式会社・酒井
 もともと長尺の商品ということで輸送や資材の面で利点があり使い勝手の良い商品ですが、+αとして環境に優しいという付加価値がつきました。見た目も独自の風合いがある、今までとは印象の違う商品です。この商品を使用することで、環境への貢献を是非実感していただければ嬉しいです。

丸富製紙株式会社・八木
 光沢感や印刷適性など、ポリ袋の方が見栄えの良い部分はありますが、「環境に良いものを選ぶ」という価値観を是非共有していただければと思います。時代のニーズに寄り添いながら、皆様に長く愛される商品に育てていきたいです。

 

 製紙の町である静岡県富士市を拠点に、それぞれの企業の強みを生かして誕生した「ペンギン超ロング4倍巻き4ロール・シングル(紙包装)」。それぞれの分野でのプロフェッショナルが共創して出来た共同開発商品です。この場にいる誰にとっても初めてだらけの、手探りの状態から生まれたこの商品は、これからも改良を重ね、進化し続けます。それぞれのライフスタイルに溶け込みながら、無理なくエシカル消費を進めていただければと思います。今後の展開に是非ご期待ください!

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